INTERVIEWS
March 22, 2021

【Home Again】vol.5:haluta 徳武睦裕さん「住まいこそが人の心の豊かさをつくる」

 
家具と雑貨のお店BULLPEN(以下:ブルペン)の松島大介さんが、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を営む人々を訪ねていく、連載インタビュー。

第5回は、北欧ヴィンテージ家具や雑貨、パンの販売事業を行うhalutaの代表、徳武睦裕さんを訪ねました。
徳武さんには、3月にローンチしたtefuの新サービス(ヴィンテージ家具のレンタル・サブスクリプション)の立ち上げに携わっていただき、tefu×halutaという形でスタートいたしました。(サービスに関する記事はこちら)
halutaさんは、家具の販売事業にとどまらず、設計やホテル運営など、様々な事業展開にチャレンジされながら、より良い住まい方・生き方や価値観を提供されています。
その会社を営む徳武さんが、何を一番大事に考えて生きているのか。なぜ今回tefuの立ち上げに関わってくださったのか。
デンマークと日本を行き来しながら暮らす徳武さんの思想をお伺いしました。


 


 
松島 - halutaを始められたきっかけからお伺いさせてください。
もともと、おじいさんが上田で食堂をされていたんですよね?
 
徳武 -父の方のお父さんが、上田で食堂・結婚式場・ダンスパーティー会場・パチンコ・ゲームセンターをやっていました。自営業家系なので、僕は高校すら行く気なかったです。
 
松島 -僕も似ています、家族全員自営業だったので、勤めようという気にならなかったですね。
 
徳武 -僕も3年間は会社に勤めたことがありましたが、違和感を感じながらやっていました。
雑貨の会社なのですが、最初の1か月間カフェでアルバイトで働いていたところ、社長に急遽呼ばれて、荷物を運ぶことになり、気がついたら社員になっていました。
 

 

松島 -当時ってカフェブーム最盛期ですよね。
 
徳武 -そうですね。次々に東京にカフェができるたびに、当時の会社の製品はとても重宝されたので、オープニングの立上げには70件くらい関わりました。
 
松島 -その頃からインテリアに関わられるようになったのですね。北欧ヴィンテージとの出会いはいつ頃ですか?
 
徳武 -19でNYにいったときに、MOMAでアアルトの家具とかパイミオを見て、ですね。
イームズなどが当時は流行っていたのですが、僕はどうにもプラスチックとかFRPとかは好きになれず。結局僕が買ったのはデンマークの家具でした。
 


 
松島 -上田に戻ったきっかけは?
 
徳武 -親のやっている喫茶店を手伝う機会があり、その時に、“上田でも良いかも”、と思えたので、そのタイミングで会社をやめました。元々3年でやめると決めていたので、ちょうど良いタイミングでもありました。ご縁があって、フィンランド人とも知り合うことができ、彼の紹介を訪ねながらフィンランドを巡りました。
 
松島 -そこから北欧での買い付けが始まったんですね。
家具のこと続けて20年くらいですか?
 


 
徳武 -最初はずっと雑貨をやっていました。
それから2006年くらいに、骨董屋さんで働いていた友達の弟が、東京から上田に戻ってくるという話を聞きました。家具のリペア技術がすごいので、戻ってくるタイミングで声をかけました。家具をたくさん仕入れるので、うちでやらないかと。
 
松島 -その人がきっかけだったんですね
 
徳武 -僕は結局直せなかったので。デンマークで家具を色々見ても、これは直せないなと思っていました。
はじめは、修理道具を借りたり、買ったりして、自分で塗ったりしてみましたが、でもやはり素人なので、納得もいかないですし、これをお客さんに売っても、、、という思いがありました。
それを直せる人が現れたので、一気に輸入拡大して、家具の事業を広げました。
 


 
松島 - 20年間ずっと続けていく中で、雑貨から家具、そして家具以外にもパンとか、今いろいろな事業をやっていらっしゃいますが。
 
徳武 -雑貨よりも家具よりも、何よりも先に、カフェが始まりです。そこにパンがあった。だから、パンの事業をやっているんです。
 


 
松島 -そういうことだったのですね。
ずっと上田でやられていましたが、今度、本拠地を移転されるんですよね。
 
徳武 -はい、上田の場所は売却しました。
 
松島 -今までも何回か移転されてますよね。
 
徳武 -今までは事業拡大のため、倉庫を大きくするために移転していましたけど、今回は倉庫を小さくします。今回の移転は事業拡大というより、次のフェーズに向けて場所も変えていこうという意味合いもあって、本拠地を軽井沢に構えることにしました。
 


 
松島 -徳武さんは、いろんな事業をやっていますけど、こういう、いい食とか、いい家具とか、考え方に一本筋が通っていますよね。自分の筋を持っていらっしゃるというか。
 
徳武 -衣食住だから、人間に外せないものをやっているだけです。
たまたまおしゃれじゃなかったので、ファッションはやらなかったですが。ファッションは流行り廃りがあるから大変ですよね。
僕らの業界は、パンもインテリアも、ブームがないので。
 
松島 -何かやりたいことがあっても、ほとんどの人ってやろうとしない。でも徳武さんは、全部やっているので、すごいですよね。
 
徳武 -僕は、結構プレッシャーに弱いですよ。弱いですけど、全部言うようにしています。
口に出したことは、やらないと恥ずかしいと思っているので、実行しています。
 


 
松島 -今は何に興味があるんでしょうか。
次にやろうとしていること、考えていることは。
 
徳武 -一番は、僕にしかできないことをやるのが良いなと思っています。家具もパンも、誰でもできるので、固執していないし、いつでもやりたい人がいたら譲ります。
現時点では、住宅の断熱性能のことを、僕が言うことが一番良いだろうと思って、一番時間を使っています。
 
松島 -以前、ハルタさんが取り組まれている住宅のことをお伺いしたときに、空調がないってどういうことなのか分からなくて、びっくりしたんですよね。日本に住んでいると、空調あることが当たり前過ぎて。
でも、徳武さんが日本とデンマークを行き来する中で、一番違うと思ったことが、住宅だったんでしょうか。
 
徳武 -そうですね。日本の住宅性能があまりに低すぎるので。
 
松島 -レベルが、ですか。
 
徳武 -レベルも何も、スタート地点にすら立てていないと思います。

先程、僕にしかできない・言えない、と言ったのは、やっぱり日本とデンマークの行き来を多分日本で一番していると思うからですね。
そして向こうに家を持って、日本にも家を持って、両方に生活圏を持っている僕だからこそ、このギャップを伝えられるんじゃないかと思うんですよね。
 


 
徳武 -住宅性能に全ての違いが結びついていると思っています。
教育や、家族が仲良く生活するとか色んな部分においても、全部まず住宅性能の差があるので、ここで結構どんなお金を持っている人でも、コンクリートなどでできた家に住むのは寒くてイライラしてくるので、家庭円満にならないですよね。
寒い家、空気の悪い家は、子供の勉強の集中力も変わってきますし、夫婦の仲も変わってきますし、それは実は社会の全てに関わってくるんですよね。イライラせず、家庭が安心だと、結構なんでも大丈夫なんです。それがデンマーク人。
なので、一年海外に出て遊んでいたって何の不安もない。家がしっかりしているので、帰るときの不安がないです。もちろん、保障もしっかりしているし、政府もしっかりしているし、この差はすごいです。
 


 
徳武 -経済活動も人口も違うので、日本がデンマーク政府のようになるのは難しいですが、住宅性能だったら、工事の問題なので、実践してしまえば良いのではないかと考えました。
実際に農家さんのお家をやらせてもらいました。はじめは東京から移住して、掘っ立て小屋みたいなところに住みながら毎日農作業して、帰ってきたら石油ストーブに灯油いれて暖を取る、という生活をしていたそうなんですが、やはりイライラしてくるし疲れるし、朝も寒くて布団から出られないから、生活がかなり疲弊していたそうです。
ですが、うちの手掛ける家に住み始めて半年、何のストレスもないし、むしろ農作業は捗るし、もちろん夫婦も仲良くなるし、と言っていましたね。



 
松島 -住宅を変えるだけで、幸せになる、生活が、生き方が変わる、ということでしょうか。
 
徳武 -そうなると思いますよ。デンマークの人たちは実際にそうなので。
デンマークには低所得者層とかそういう概念はあまりないのですが、要はホームレス施設や刑務所といったそういう人たちが住むお部屋と、女王様が住むお部屋が同じくらい、どこの家もきちんと性能が担保されています。
箱物は人間にはやはり重要です。やはり重要です。日本は、開発の方向を間違えてしまいましたよね。日本はバブルなど色々経験していますが、中でも敗戦の影響が一番大きいです。ハリボテな国の理由は、そこですね。
デンマークとは雲泥の差があります。デンマークは本当に落ち着いています。



 
松島 -気持ちの余裕は、生きる上で最重要事項ですよね。
 
徳武 -物理的にも全然違いますね。
僕は普段、3~5時間睡眠です。空気が良いところに住んでいると、寝ている間の疲れがないかので、すぐ起きられます。でも、住宅性能の悪い家に住んでいる人は、寝ている間も体が気候や環境と戦ってしまうので、朝疲れているんですよね、なので起きれない。
朝寒くて布団から出れない10分~20分を、冬のあいだ毎日繰り返すと、人生全体で2~3年ロスすることになります。そうすると年収にすると二~三千万は変わってきますね。
 
松島 -計算すると、より危機感が湧きますね。
なぜ日本の家はそうではないのでしょうか。
 
徳武 -日本の住宅性能が低い理由としてあるのは、日本は所得が増えないからですね。所得を上げないためのコントロールがなされているんですよ。
所得が上がらないということは、つまり、いい家に住めないんです。国民にいい家に住まわせない。なので、住宅性能があがる土壌が全くないですね。
 


 
徳武 -でも、またもう一度スタートすればいいので。内装は何でも良いからとにかく住宅性能、内部環境を良くしていかないといけないと思います。
全員が空気のきれいな、いい家に住んでいることが前提で、そのうえで、個々の強みを活かせれば、社会全体の底上げになると思っています。
インスタ映えは全くしないですけどね、空気とか温度は目に見えないので。
 
松島 -心の余裕が全く違いそうですね。
 
徳武 -心の余裕は、もう測れないくらい差があります。デンマーク人は、貯蓄がゼロですから。
預金に税金がかかるので、もちろん預金もしないですけど、タンス預金もほとんどしない。キャッシュを持たないんです。


 

松島 -どうしてそんなことができるんでしょうか?
 
徳武 -国民は、将来不安がないから、貯金する必要がないんです。
お給料を全部使っても、不安にならない。それは、国が豊かで、保証が手厚く、病院も無料ですからね。貯める必要がないです。なので、保険ビジネスもありません。
教育ビジネスも禁止されています。民間が教育で儲けてはいけないんです。教育は国がやることなので、手厚い色んなカリキュラムが用意されています。
バカという概念や、落ちこぼれというのがないですね。ちょっと違った特性があるね、という表現をします。クラスに馴染めなかったら、クラスを変えたり、学年を変えるのは当たり前で、良くないことではありません。
 
松島 -宿題もテストもないんですか?
 
徳武 -ないですね。大学からだけありますね。
 


 
松島 -日本に戻ってこないで、デンマークにずっと住みたいと思ったりしないんでしょうか。
 
徳武 -思っていますね。今も向こうに家はありますし。子どもたちも、もう日本に戻る気はないですね。
でも自分は、40年以上ずっと日本にいたので、自分だけこのまま海外に行ってしまうってことは、できなくなりましたね。
日本の住宅性能をあげるために、設計事務所を作って、4年やってまだ赤字ですけどね、、、家具事業の人に怒られてます。でも、誰かがやらないといけないので。
 
松島 -気づいてくれる人は増えてきていますか?
 
徳武 -ちょこちょこ増えてきていますね。今の日本でまずできることから、ということで、アルミサッシをやめて、木製サッシに変えようと、あちこちに話に行ったりしています。
 
松島 -今はアルミであることが、当たり前で、デフォルトですもんね。
 


 
徳武 -アルミサッシを悪者にする風潮をつくっていきたいです。
このように、やらないといけないことが見えたので、これからしばらく10年くらいは軽井沢から、住宅性能に力を入れて、発信していこうと思っています。
ホテルは、これからもこの一環でやろうとしています。理由は、住宅性能の良さを実際に体験してもらうためですね。朝起きた時に一番、住宅性能の高い家の心地よさや違いを実感できるので。
 
松島 -やはり、全然違いますか。
 
徳武 -全然違います。小寒い空気は全く無いです。
デンマークは、換気のために窓を開けたりはしないです。24時間、機械換気です。自然に頼りません。
日本人は、自然を愛しているし、自然を美徳としていますが、でも本来自然は恐ろしいですし、全く優しくないです。
なので、僕たちの設計では、窓をあけずにフィルターを通して24時間、機械換気で行います。きれいで、温度も一定で。でも、光は大事なので、太陽は味方につけたいですね。そして、土も大事です。
 

 
 
松島 -暮らし方というのは、説得力がありますね。もっと広めてほしいです。
 
徳武 -僕の場合は、デンマークに家も買って、子供は普通にデンマークの学校に通って生活していますから、説得力あると思います。
 


 
松島 -家具についても、日本とデンマークでは大きく違いそうですね。
北欧ヴィンテージという言葉があるように、halutaさんの仰っている、引き継ぐ・買うものを次の世代に残していく、という根本的な考え方の違いがあるのでしょうか。
 
徳武 -ないです。向こうのリサイクルの考え方は、日本と全く違います。
日本は残念ながら、気持ちも現実的にも、貧しい。貧しいから、大事に使って引き継ぐということを美徳としているんですが、デンマーク人はそういう考え方は一切ないです。裕福ですし、幸せなので。ですが、リサイクルの仕組みが国をあげて上手く行っている理由は、結果お得だからです。物に執着していないんです。メルカリのようなアプリが、日本よりも5年も早く流行っていて、個人トレードがかなり盛んなので、みんな一番高い人に売ります。義理や贔屓で安く譲るようなことは、一切ないですね。
 


 
松島 -でも、なぜデンマークで長く使い続けられる、良いデザインの家具が作られるようになったのでしょうか。
 
徳武 -それもやはり、住宅性能が高かったからですね。住宅性能が高い次のフェーズは良い家具だからです。
 
松島 -確かに良い箱がないと、いい家具を買う気にはなりませんもんね。
 
徳武 -住宅性能の向上がデンマークは早かったです。それはなんでかと言うと、寒かったからです。
マッチ売りの少女や、醜いアヒルの子が生まれたアンデルセンの童話の時代は、デンマークは本当に貧しかった。断熱材がなかった時代なので、家の中がとても寒くて薪ストーブを一生懸命焚いて部屋をあっためて生きていた。そのままではいけないということで、戦後、国家を上げて住宅性能に取り組んだのです。そうして生まれたのがロックウール社です。




 
徳武 -それから木製サッシの会社などもたくさん出てきて、いい家がどんどんできる、住宅ラッシュでした。いい家がデンマーク中に次々できるから、追って家具メーカーも良い家具作って沢山売ろうとなったので、ヴェグナーやモーエンセンたちが一生懸命デザインして、どんどん発表していったんですね。
 
松島 -最盛期というと…?
 
徳武 -60年代後半ですね。イギリスの展示会が一番有名なのですが、ほとんどがデンマークブースでした。デニッシュ家具の全盛期です。世界中からイギリスの展示会を見に来て、デンマークの家具はすごい、と評判になり、世界中にデンマークの家具が輸出されていました。
 
松島 -そういう家具は今でも残り続けているんでしょうか?
 
徳武 -今もうほとんどないですね。更に、ヴィンテージ家具がなくなりましたね。
なので、もっと価格があがってきています。
 


 
松島 -ヴィンテージ家具が減っていく一方だから売らないのではなく、貸すほうが良いのではないか、というお話しを以前されていましたよね。
 
徳武 -そうですね、所有させないで、貸すというジャンルを作っておかないと、ヴィンテージ家具がマーケットから消えてしまうと思います。
家庭に購入されて、所有されてしまったら、10年後にはもう見なくなってしまうんじゃないでしょうか。
 
松島 -現地に一番行っている徳武さんが言うなら間違いないですね。現地ですら、買えなくなっているということですもんね。
 
徳武 -僕でも、買えないですね。
 


 
松島 - 3月からは、実際にtefuで家具のリース事業が始まりますが、立ち上げにはhalutaさんも一緒に関わられていますね。
 
徳武 -そうですね。
他の家具事業者は、ジェネリック家具を作り始めたんです。彼らは家具屋だから、家具屋として家具をつくり続けるために、リプロダクトを始めたんです。
でも、halutaは家具屋ではないので。一番最初に始めた事業も、カフェや雑貨ですし。北欧との架け橋になりたいという思いで、家具屋と一言では言えない、色々な事業をやってきているので、リプロダクトはしないでヴィンテージ家具を残せる事業として、リースという形は良いと考えました。
 
松島 -レンタルという選択肢を作ることで、ヴィンテージ家具を未来に残しつつ、リペアの職人さんのお仕事も残しつつ、より手軽にヴィンテージ家具が体験できるようになる、とてもいい仕組みですね。
そうすることで、人々がもっと住宅環境を良くすることに関心を持ったり、豊かな暮らしに興味を持ってもらえるといいですね。
 

 
 
一貫して、「住まいこそが人の心の豊かさをつくる」ことを教えてくださった徳武さん。
ひとつひとつのお話しから、日々なんとなく見過ごしている「余裕の無さ」や「不快感」を痛感させられました。そして、デンマーク人から学ぶ、豊かに暮らすための合理性や環境は、納得いくものばかりです。
 
日本の「住まい」がより良くなり、日本人が心身ともに豊かな「住まい方」「生き方」ができるように。新しい時代の価値観を、(tefu)を通して広めていきたいと思います。




Interview : Daisuke Matsushima
Edit : Chisato Sasada
Photo : Nao Manabe


tefuは、ヴィンテージ家具のシェアリング事業や空間運営事業を通じて、「さまざまな価値を分かち合いながら、自分らしく住まえること」のサポートを行う新プロジェクトです。
本連載は、tefuのアドバイザーであり、家具と雑貨のお店BULLPENの共同代表である、松島大介さんがインタビュアーとなり、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を実践する人々を訪ねていく、BULLPEN×tefuのコラボレーション企画です。
「良いものを長く使い続けること、その価値を分かち合うこと」について考え、これからの豊かな暮らしのヒントをお届けします。