INTERVIEWS
June 24, 2021

【Home Again】vol.6:akaoni 小板橋基希さん「多様さを面白がるデザイナー」前編


家具と雑貨のお店BULLPEN(以下:ブルペン)の松島大介さんが、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を営む人々を訪ねていく、連載インタビュー。

第6回は、デザイン事務所 akaoni の小板橋基希さんを訪ねました。
小板橋さんは、Home Again vol.2でインタビューさせていただいた菅家さんとともに、本プロジェクト名『tefu』のもう一人の名付け親であり、ロゴをデザインしてくださった、山形を拠点にされているデザイナーさんです。
菅家さんとの出会い話から、tefuのプロジェクトに出会うまで、そして、『tefu』というワードにたどり着くまでの思考回路を伺いました。




松島 ー 最初びっくりしました、菅家さんと小板橋さんがこのtefuのプロジェクトに関わっていると聞いて。僕はどういう経緯でtefuに関わっているかというと、ブランドマネージャーの金塚さんがもともとパドラーズやブルペンに普通にお客さんとして来てくださっていたんです。その2つに僕が関わっていることを知ってくださって、そこからtefuに関われるようになったのですが、小板橋さんはどうやってこのプロジェクトに関わるようになったのですか。
 
小板橋 ー それこそ菅家さんですね。一昨年の年末に菅家さんから「下北沢に来て」と突然呼び出され、行くと、「この駅前が開発されていて、商業施設ができる」と言われ、次に代々木上原に連れて行かれて「どう?」と聞かれ、どうかと突然聞かれても…と困惑してました(笑)そして、その日の最後にようやく金塚さんを紹介され、詳しい話しを聞き、ようやく理解した、という感じです。

松島 ー 菅家さんの頭の中では、おふたりの繋がりがぱっと出来上がっていたんでしょうね。何も聞かされずに連れていかれる身としては、何のことだかってなるんでしょうけど(笑)
今回のtefuのことも、後から菅家さんが関わっていることを知って、そうしたら小板橋さんもいらっしゃって、、、やはり人と人をつなげるのが上手い方ですよね。何屋さんかわからないんですけど、常に楽しいことやっていますよね。僕らもいろいろ繋いでもらったし。餅は餅屋じゃないですけど、作ってる人と売り出してる人と、役割違うじゃないですか。先生だったからかもしれないけど、人それぞれの役割をやっぱり上手いですよね。


菅家さんと小板橋さん:スイス旅行の写真

出会ってから様々なプロジェクトを共にする仲に。今では一緒に旅行をしたりも。

そんな菅家さんのインタビューはこちら 前編後編



小板橋 ー 子供の頃は、バブル全盛期だったんです。僕は群馬の中之条町という山奥で生まれ育ったのですが、その町は全くそういう雰囲気ではないのに、テレビや雑誌などのメディアは全部イケイケでした。高校卒業後、東京に行かずに山形に行ったのも、そんなイケイケな価値観に違和感を感じていたというのが理由の一つでもあります。なので、初対面でもノリの良い菅家さんに最初に呼び出された時は「何かの勧誘かも?」と本気で疑ってましたね(笑)




松島 ー 実際にtefuのプロジェクトで、小板橋さんは、具体的にどういうポジションでどういうアウトプットをされたんでしょうか。
 
小板橋 ー ネーミングとロゴデザインおよびサインの依頼をいただきました。まずネーミングのアイデアを出す為に、このプロジェクトで何をするのか、何を考えているかを金塚さんに伺いました。tefu yoyogi ueharaの民泊プロジェクトのこと、ヴィンテージ家具のサブスク計画のことを聞き、「おぉ、今は家具をサブスクする時代なのか!?」と驚いたのを覚えています。その日の夜に、ご自身でも民泊をされていた金塚さんの自宅に泊まらせてもらったんですが、夜、金塚さんと家に帰ると当たり前のように金塚さんの奥さんがいて、朝起きるとお子さんが「おはよう」と元気に話しかけてきて、朝ごはんは金塚さん家族と一緒に食卓を囲む…と、僕自身はじめての民泊で、いつものホテルに宿泊する東京出張とは違う、なんとも不思議な体験をさせてもらいました。tefu yoyogi ueharaではインバウンドの観光客もターゲットにした計画だったので、そこには様々な人々動詞の価値観の共有があり、ステレオタイプな東京の旅行ではない、それぞれの経験や視点が生まれるのでは、というイメージが膨らみました。

松島 ー 僕も、ロゴとネーミングと、分かち合うというテーマの経緯を聞いていますが、金塚さんの家でのステイを通して実際には頭の中でどういう変換があったのでしょうか。分かち合うというテーマから、今回ネーミングにどうつながったのでしょうか。

小板橋 ー 「分かち合う」は良い言葉ですが、それをそのまま言葉や形にするのはあまりにも道徳的でまじめ過ぎるじゃないですか。分かち合える状態というのは、最終的な結果というか、一番最後にできる平和な世界なので、そこに辿り着くまでに起こる様々なことや、連鎖反応、そのプロセスが面白いんだろうなと思い、その部分をいかにみんなで面白く共有できるかがポイントだろうなと思っていました。
これは今回のことだけではないんですが、やっぱり素敵なアイデアを考える人は、色々な思考を経て、言葉を磨きに磨いてアウトプットしますよね。それは分かりやすくて素晴らしい言葉やコンセプトなんが、それをそのまま形にしたりコミュニケーションツールにしたら、思いついた人のイメージにみんながすぐアクセスできちゃって、便利な反面、それって面白くないじゃないですか。思いついた人の思考プロセスも辿りつつ、みんながそれぞれの経験でその答えにたどり着いた方が、より面白いだろうと思います。




小板橋 ー 今回のtefuの名前を考える時も、「分かち合う」という概念を様々な言葉に置き換えて考えてみました。ただ、この素晴らしい概念をキレイな言葉にしちゃうと、キレイすぎてなんとなく面白くなかったんです。そんな時、金塚さんが「共有するというプロセスは、小さな分かち合いというのがいろんなところで起きて、繋がって、一個のいい未来に繋がったらいい」と話していて、それを聞いて思いついたのが「風が吹けば桶屋が儲かる」でした。こっちが筋道立てた通りに進むのも、もちろん予定通りでそれは面白いのかもしれないですけど、ちょっと違う、想像もしなかったことも絡みとりながら行った方が、より豊かになるじゃないですか。まさにそれって今回のことだなと思って、「風が吹けば桶屋が儲かる」のワールドワイド版「バタフライエフェクト」を面白い形にできないかと考えました。
 
松島 ー tefuというのは、てふてふ・・・からきてるんですよね
 
小板橋 ー 蝶々の古典読みですね。旧仮名文字づかいというか。「てふてふ」の音の面白さもあって、すごく印象的ですよね。小学生くらいの時に、この読み方を知った時は結構ショックじゃなかったですか?同じ日本語なのになんで?!…と。日本人も、海外の人も、物事に感動することや面白がる気持ちは同じで、そんな小さな気持ちから分かち合いたいと思いました。また、蝶々は元々キレイなイメージなので、それをそのまま表現するのではなく、「分かち合う」という意味や物語だけ抽出して、蝶々やバタフライエフェクトをモチーフにしたことをまったく見えない装いにした方が、みんなが勝手に想像を膨らませてくれるので良いなと思ったんですよね。そうやって、tefuという名前ができあがりました。
 
松島 ー 聞いたときにすごいいいなと思いました。ロゴのデザインが小文字だったり、それがカッコでくくられていたり、というデザインにはどんな意味合いがあるんでしょうか?
 
小板橋 ー あのカッコは、蝶の羽ばたきを意味しています。まさに蝶々が羽ばたくと、そのヒラヒラした羽の小さな振動が、いろんな影響を与えて、どっかでハリケーンになってしまう、みたいなことです。僕たちが日々選択する1つ1つの行動とかアクションの振動が、大きなものにつながるという意味も込めて、羽ばたきというのをグラフィックで形にしたのが、今回のデザインです。また、カッコは何かを補足や強調して伝えたい時に使うものなので、そんな意味もあります。



 
松島 ー サブタイトル「分かち合う」というのが、tefu全体の日本語のテーマだと思うんですが、今はコロナのこともあったり、風の時代に入ったと言われるように、人と何か行き来したりシェアしたり、価値観が変わってきてるころだなあと感じています。これまでは人に会いたかったらすぐ会いに行けたし、シェアしやすかったけど、今は時代の変化とともに、1年前までは考えもしなかったことが起きたり、移動することで新しいアイデアとかが入ってきたのに、それが制限されたりするなかで、分かち合うって、たまたま深い言葉だなと思いました。英語で言うとshareですけど、それの、これからどう言う形で、分かち合う世界になっていくともいますか。
 
小板橋 ー 最近、会えない、行けない、ということが起きるじゃないですか。僕もたまに「よく山形でデザインやられてますね」と言われることがあります。それは「刺激とか、インプットとか、どうされてるんですか?」という意味なんだと思います。東京のように起きてることをリアルタイムで見たり触れることはできないかもしれないですけど、僕は直接見れなかったり会えなかったりするときの想像力も、それはそれで面白いと思っています。例えば、みんなが話題にしているものがあったとして、自分が行けなかった時は、やっぱり行きたいし悔しいじゃないですか。でも行けないんだったら行けないなりに、色々調べればいいし、想像したらいいし、その上で自分の中でできたイメージは、見た人とは同じにはならないかもしれないけど、面白い形にはなってる気がして、逆に「行ったら負け」くらいの気持ちで臨めばいいのでは、というのは前から多少思っていました。田舎で暮らす知恵ですね(笑)



 
小板橋 ー 今は、会えないし行けないから物事が止まる、と言うのは、逆にそうでも無いような気がして。同じような話で、絵を描く時にちょっと離れて俯瞰視しながら描くといいよ、というのがよく教わることなんですけど、ある人は「俺は絶対離れない、この近い距離で描く。全体見たら負けだよ」って言う人もいる。それってなんか面白いじゃないですか。そういう不利な状況も享受しながら、いろんな多様性がでてくるのが、分かち合うってことなのかなと思うので、みんなが集まって面白いこともあるし、そうじゃない面白さものもあるだろうし、そういうのがもっといろんなところでポコポコ出てくるといいなと思います。

松島 ー とてもいい話ですね。いまの時代のデザインにおける変化は感じていますか?
 
小板橋 ー あんまり変わらないんですよね。ただ、社内がリモートだと、微妙なニュアンスの共有が難しくなってきましたし、時間的なタイムラグも、ストレスも多少出てくる。そのくらいかなあ。
 
松島 ー 会って話すのと、電話なのか、zoomなのかで、温度感は全然違いますよね。
 
小板橋 ー 久しぶりに東京に来て、やっぱり面白いですよね。具体的にこうです、というのはないですけど、いろんな人の表情が見れますし、街を歩くだけでいろんな人がいますもんね。それだけで、全然違う場所に来たという面白さがある。人と会う機会が減って、そんな刺激が足りなくはなっているのでしょうね。
 
松島 ー ないものねだりなのかもしれないですけど、僕なんかは逆に電車に乗っているだけで、情報がありすぎます。逆に何もないところや、自然のなかで一人考えるとか、そういうことが簡単にパッとできるところは憧れますね。たまに東京に来て、その良さみたいのがわかるというのは、それはそれですごいいいなと思います。今移動に制限がかかっているので、そういう意味でクリエイティブな仕事をされている小板橋さんは、変わったところがあるのかなと思って。




小板橋 ー 少し言い方が悪いかもしれないですが地方の方が窮屈ですよね。
 
松島 ー みんなが繋がりすぎているからなのでしょうか?
 
小板橋 ー 東京の方がおおらかなのでしょうか。格好・服装にしろ、行動にしろ、規律というものが、東京に比べて地方の方が、いくつか多い気がするんですよ。もちろん、東京より人口が少なくて、自然環境が厳しい分、お互いに支えあって生きていくための知恵だと思うのですが。




小板橋 ー ただ、人の行き来が少なくなった分、地方から都会のおおらかさが減っていってないか心配です。どんどん監視し合うみたいな風になってきている感じもしますし。なかなか難しいんですけど、人の往来が無くなるというのは、そうゆう事なのかもしれません。




山形をベースにされながら、東京でもお仕事をされる小板橋さんは、どんな場所でも状況下でも、それぞれの面白さを捉えていらっしゃいます。
今の状況を悲観するだけでなく、これからをどう面白く考え、生きていけるか、そんなことを問われているような気がしました。

わかりやすい最終的なアウトプットや結論だけがフォーカスされてしまいがちですが、
小板橋さんが『tefu』のネーミングで込めてくださった意味のように、それぞれの考えや生き方のプロセスに目を向ければ、もっと多くの気づきや面白さを発見することができるのではないか。
そうしたら、もっとおおらかに生きることができるのかもしれません。


Interview : Daisuke Matsushima
Edit : Chisato Sasada
Photo : Nao Manabe


tefuは、ヴィンテージ家具のシェアリング事業や空間運営事業を通じて、「さまざまな価値を分かち合いながら、自分らしく住まえること」のサポートを行う新プロジェクトです。
本連載は、tefuのアドバイザーであり、家具と雑貨のお店BULLPENの共同代表である、松島大介さんがインタビュアーとなり、「自分らしい住まい方」「自分らしい生き方」を実践する人々を訪ねていく、BULLPEN×tefuのコラボレーション企画です。
「良いものを長く使い続けること、その価値を分かち合うこと」について考え、これからの豊かな暮らしのヒントをお届けします。